- 腰椎椎間板ヘルニアとは
- 腰椎椎間板ヘルニアのセルフチェック
- 腰椎椎間板ヘルニアの発症部位
- 腰椎椎間板ヘルニアの症状
- 腰椎椎間板ヘルニアの原因
- 腰椎椎間板ヘルニアの診断
- 腰椎椎間板ヘルニアの治療
- 腰椎椎間板ヘルニアの予防
- 簡単!腰痛予防ストレッチ
腰椎椎間板ヘルニアとは
腰椎椎間板ヘルニアは、突然腰やお尻に痛みが現れ、数日後には痛みが激しくなり、足の痛みやしびれが生じる状態です。一部の患者様では、「動けないほどの激しい痛み」や「夜間の睡眠障害」がみられることもあります。特に、前かがみの姿勢や重い物を持つことが症状を悪化させることがあります。主に20~40代の方に多くみられますが、高齢者では腰部脊柱管狭窄症などの他の疾患を併発していることもあります。男性の方が女性よりも約3倍の頻度でこの症状を発症する傾向があるとされています。
腰椎椎間板ヘルニアの
セルフチェック
下記の症状がある方は、腰椎椎間板ヘルニアの可能性があります。気になる症状がある場合は、早めに整形外科を受診してください。
- 突然、足が痛くなった
- 突然、腰が痛くなった
- 足や腰に痛みや痺れがあり、体重をかけるとさらに強い痛みに襲われる
- 足が持ち上がりにくい
- 安静にしていても足や腰の痛みや痺れが治まらない
速やかに受診が必要な症状
- つま先歩きやかかと歩きができない
- 座っている時に足親指を上に上げられない
- 尿が出にくい
- 尿意が分からない
- 肛門周囲が痺れる、感覚がない
- 尿や便が漏れる、漏れる感覚が分からない
腰椎椎間板ヘルニアの
発症部位
腰椎は脊柱の腰部に位置し、5つの椎骨で構成されています。椎間板はこれらの椎骨の間にあり、線維輪と髄核から成り立っています。椎間板は脊柱をつなぎ、負荷を和らげる役割を果たしています。椎間板の線維輪が裂け、髄核が外に突出する状態が「ヘルニア」です。
特に第4腰椎と第5腰椎の間や、第5腰椎と仙骨の間はヘルニアが起こりやすい箇所です。また、高齢者では、若年層と比べて上の椎間板(第1腰椎と第2腰椎の間から第3腰椎と第4腰椎の間)にヘルニアが生じることもあります。
ただし、椎間板が突出しているだけで痛みやしびれが生じるとは限りません。症状は患者様によって異なり、痛みやしびれを伴わない場合もあります。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
突然、腰や臀部に痛みが現れます。さらに進行すると、足に激痛や痺れが起こります。つまずきやすくなったり、痛みをかばって身体を傾けるために背骨が曲がったりします。そのうち、坐骨神経痛は腰椎椎間板ヘルニアの代表的な症状です。神経が強く圧迫されると、足が動かない、持ち上げられないなどの歩行障害が引き起こされます。病気が進行して膀胱・直腸に神経障害が起こると、尿や便が漏れる、尿意が分からないなど排尿障害・排便障害を起こしてしまいます。
腰椎椎間板ヘルニアの原因
腰椎椎間板ヘルニアを発症する原因は、患者さんの生活習慣や遺伝・加齢など様々です。
加齢
加齢によって、椎間板機能が低下して、神経圧迫や筋肉麻痺が起こることがあります。
職業
重い物を持ち上げたり、中腰の姿勢をとったりする作業が多い方や、長時間立ち仕事や座り仕事をする方は、腰椎に負担がかかりやすくなります。こうした作業に従事する方は、事務仕事をしている人と比べて、発症リスクが3倍ほど高くなるというデータがあります。
喫煙
ニコチンには血管収縮作用があります。これにより、椎間板周囲の毛細血管が収縮してしまい、椎間板への栄養供給が悪くなり、椎間板の変性が進みやすくなります。
アメリカの研究によると、1日に10本のタバコを吸う方は、腰椎椎間板ヘルニアの発症リスクが約20%上昇する可能性があると報告されています。
遺伝
10代の患者様の場合、遺伝的な要因が非常に大きいと考えられています。椎間板には血管が存在しないため、一度損傷すると自然治癒が難しいです。
特に椎間板に負荷をかける動作や仕事は、椎間板の消耗を早めるだけでなく、変性を促進する原因にもなります。そのため、若い時期から椎間板に対する負担を減らすような適切な姿勢や運動を心がけることが重要です。
腰椎椎間板ヘルニアに
なりやすい人の特徴
- 猫背など姿勢が悪い
- ハイヒールを好んで履いている
- 肥満
- 仕事や育児などで、前かがみの姿勢や中腰姿勢の習慣がある
- 腰をひねる動作をよく行う
- 重たい物を持ち上げることが多い
- 長時間座りっぱなしの仕事に就いている
腰椎椎間板ヘルニアの診断
触診・レントゲン検査、MRI検査を行い、正確な診断と適切な治療を行います。
問診・指診・触診
症状や痛む箇所、痛みが出るタイミング(安静時や咳・くしゃみ時など)など、詳細な情報をお伺いします。触診では、筋力、感覚、腱反射などの検査を行い、椎間板ヘルニアの位置を特定します。特に第4腰椎と第5腰椎、第5腰椎と仙骨の間にヘルニアがある場合、親指を上に動かす筋肉が弱くなるという特徴がみられることがあります。
下肢伸展挙上試験
(SLRテスト)
膝をまっすぐ伸ばしたまま足を上に持ち上げる検査で、太ももの後ろやふくらはぎ、すねの外側に痛みが生じるかを確認します。また、大腿神経進展テスト(FNSテスト)では、腰を押さえて膝を上げる際に太ももの前側やすねの内側に痛みが生じるかを検査します。
ただし、高齢者の方では、これらのテストを受けても痛みが出ない(陰性となる)傾向があるとされています。
MRI検査
腰椎椎間板ヘルニアの確定診断が可能です。必要に応じてMRI検査を行いますが、その場合には連携する専門の医療機関をご紹介します。
X線検査(レントゲン検査)
腰椎椎間板ヘルニアと脊柱変形・腫瘍・反り腰・猫背などによる痛みとの区別ができます。必要に応じて、神経検査やCT検査、神経根造影検査、椎間板造影検査などを実施します。CT検査が必要な場合は、連携する専門の医療機関をご紹介します。
腰椎椎間板ヘルニアの治療
これまで手術治療が主な治療法でしたが、昨今の医療の進歩によって、保存療法などで自然に治癒していくケースがあることが分かってきました。このため、まずは保存的治療から始めていきます。それでも症状が改善しない場合や、病気が進行して歩行障害や排尿障害などがある場合には手術治療を行うことがあります。
また、物理療法や運動療法などによるリハビリテーションを同時に行うことで、腰にかかる負荷を軽減し、痛みを緩和させながら再発予防と機能向上を図ります。
保存的治療
局所安静
痛みが激しい急性期には、まず安静を保つことが重要です。痛みが少し和らいだら、積極的に身体を動かし、筋力や可動域が低下しないようにする必要があります。
痛みがある時は
安静姿勢で過ごしましょう
仰向けで横になるよりも、「膝と股関節をわずかに曲げた姿勢で寝る」ことをおすすめします。また、「布団などを丸めて上半身をわずかに持ち上げる」や「膝下にクッションを置いて膝を曲げる」といった方法も有効です。
薬物療法
痛みや炎症を和らげるために、鎮痛剤や湿布、筋弛緩薬(筋肉の緊張をほぐす薬)などを使用します。また、ブロック注射と呼ばれる治療法も行われます。この治療法では、痛みを和らげるために痛む箇所の神経近くに麻酔薬を注射します。このような処置を施し、できる限り早く運動療法を始められるようにします。
当院では、症状に応じて選択される治療法として、「神経根ブロック」「仙骨硬膜外ブロック」と呼ばれる治療や、「ハイドロリリース注射」なども行っています。治療法の選択は患者様の状態や症状に合わせて行われます。
運動療法
痛みがある程度軽減した後に始める治療法です。腰への負担を軽減し、症状の悪化や再発を予防するために行います。
リハビリテーションは、下半身を中心に、姿勢や動きの改善、可動域の向上トレーニング、徒手療法(マニピュレーション)、体幹や筋肉のトレーニングなど、幅広く行われます。これらのアプローチを組み合わせ、症状の改善や再発予防を目指します。
装具療法
急性期の激しい痛みに対する治療法です。コルセットや腰椎バンドなどを使って腰の負担を軽減し、腰椎を安定させます。痛みが和らいだら、装具をつけたまま運動療法を開始します。ただし、装具を長期間使用すると筋力低下やヘルニアの再発のリスクがあるため、通常は2~3か月程度の連続使用を目安にしています。
手術
(MED法・PELD法・MD法)
内視鏡下ヘルニア摘出術
(MED法)
MED法は、身体への負担が少ない腰椎椎間板ヘルニア摘出手術の一種です。2012年からは保険診療が可能になりました。この方法は、腰椎椎間板ヘルニアのあらゆるタイプに対応できます。
内視鏡は直径が約6〜7mm程度です。椎間孔を通してヘルニアにアプローチし、手術を行います。この手術は局所麻酔で行われ、通常は20〜40分程度で終了します。切開が小さいため、抜糸する必要もありません。
日帰りまたは1泊入院で受けられ、手術当日から歩行が可能です。社会復帰も早く、手術が必要な方は、当院が提携する医療機関にご紹介します。
経皮的内視鏡椎間板摘出術
(PELD法)
局所麻酔による手術で、極細の内視鏡を用いてヘルニアを摘出します。中程度から重度の椎間板ヘルニアの方が適応となります。最小侵襲脊椎手術の代表的な手術治療です。日帰り手術が可能で、術後も歩いてご帰宅いただけます。
顕微鏡下椎間板摘出手術
(MD法)
顕微鏡下でヘルニアを摘出します。顕微鏡で血管や神経を見ながら手術できるため、安全性に優れた摘出手術です。手術に要する時間は約2時間程で、入院加療が必要になります。(約1~2週間程)
椎間板の変性が酷い場合、腰椎が不安定な場合、重度の神経障害や痛みがある場合に実施します。
腰椎椎間板ヘルニアの予防
正しい姿勢
適切な立ち方や座り方を理解し、常に意識しましょう。長時間の同じ姿勢や、腰に負担をかけるような姿勢を避けることが重要です。
特に「うつ伏せで寝ること」は腰への負担が大きい寝方ですので、このクセを改善することが大切です。
ベッドのマットレスや敷布団は、少し硬めのものを選ぶと良いです。
ダイエット
こまめな運動を習慣化して、適正体重を目指して減量するようにしましょう。
腰に負荷をかけない
物を取る際、自分より高い位置にあるものを取る際には腰を反らさないように、踏み台などを使いましょう。自分より低い位置にあるものを取る時は、「膝を曲げる」などの動作を心がけて、腰に負担がかからないように注意しましょう。
筋力アップ
負担のない範囲で腹筋と背筋のトレーニングを行いましょう。特に腹筋は、「天然のコルセット」になる筋肉です。腹筋と背筋のストレッチも有効で、痛みを軽減するのに役立ちます。
湯船に浸かって血行促進
シャワーだけではなく、湯船に浸かって血の巡りを良くしましょう。
簡単!腰痛予防ストレッチ
腰椎椎間板ヘルニアの再発を予防するには、股関節や腰の筋肉を柔軟にすることが大切です。発症したばかりの急性期は安静にする必要がありますが、痛みが緩和したらストレッチを行うことが有効です。特に、運動後や入浴後に行うと効果を上げることができます。
腰痛予防ストレッチ①
腹筋ストレッチ
- 仰向けになって膝を立て、足裏は床に付けます。
- お尻の穴を上方に向けるイメージで骨盤を後方に傾けます。
- 臍を見るように頭を起こして上半身を丸めます。
腰痛予防ストレッチ②
腰上げストレッチ
- 仰向けの姿勢になり、両ひざを直角に曲げます。両手をお尻の下に置いて、かかとをお尻に寄せます。
- お尻と太もも裏側の筋肉に力を入れて、お尻をゆっくり上げます。
- お尻を浮かせた姿勢のまま5秒程維持します。その後お尻をゆっくりと下げます。
※1~3を10セット行います。
腰痛予防ストレッチ③
下半身ひねり
- 仰向けの姿勢になって両ひざを立てます。
- 床から両肩が離れないようにして両ひざを横へ倒します。そのまま10秒維持します。
※左右10回ずつ行います。